事例4の問題をややこしくするネタのひとつが変動費と変動費率の計算。わかりづらい指示によってごちゃごちゃしがちなのですが、ゆっくり考えれば難しいものではありません。自分もはじめはこんがらがっていたのですがいつのまにか特に悩むことなくできるようになりました。改めて自分がどう考えてきたかを言語化しようと思います。
変動費、変動費率とは
変動費とは売上に比例して増減する費用のことです。例えば工場であれば、ものをたくさん作れば作るほど原材料の仕入れる量が増えますし、発送費用のコストが増えます。
変動費率は $\frac{変動費}{売上高}$ で表すことのできる、売上に対する変動費の割合のことをさします。
令和元年 事例4第2問設問1

シンプルすぎる問題で、「何か変なトラップがあるのでは?」と疑心暗鬼にさせられる問題ですが何もトラップはありませんでした。各事業部、全社の変動費÷売上高を計算するだけでいい問題で絶対に落とせない問題です。
建材事業部:4303/4514=0.95325… 95.33%
マーケット事業部:136/196=0.69387… 69.39%
不動産事業部:10/284=0.03521… 3.52%
全社:4449/4994=0.89086… 89.09%
次はややこしい問題にチャレンジ
平成22年 事例4第2問

この問題は損益分岐点売上高を求め総費用線を描く問題です。損益分岐点売上高を求めるためには変動費率と固定費を求めることが必要です。この問題を使用して変動費、変動費率を求める練習をしましょう。
なお、問題文中にある「原価構造は現状と変化がない」とは「変動費率と固定費は変わらない」ということです。
まずは現在の収益を確認します。
売上高 | 2823 |
変動費 | 1129 |
固定費 | 1640 |
営業利益 | 54 |
損益分岐点売上高は$\frac{固定費}{1-変動費率}$、もしくは $\frac{固定費}{限界利益率}$、で求めることができます。変動費率は$\frac{1129}{2823}$です。 $\frac{1129}{2823}$ は割り切れません。だいたい0.4なのですがどこで四捨五入をするとの指示が問題文にはありませんので小数で扱うと答えが少しずつずれてきてしまいます。中小企業診断士二次試験においては分数のまま計算するのが鉄則です。もちろん、割り切れるのであれば小数で計算しても問題はないです。
損益分岐点売上高=$\frac{固定費}{1-変動費率}$ = $\frac{1640}{1-\frac{1129}{2823}}$=2733.010…. およそ2733百万円となります。
納入価格が20%下がった場合
では次に納入価格が20%下がった場合を考えます。
現状 | 20%納入価格引き下げ | ||
売上高 | 2823 | 2258.4 | 2823✕(1-0.2) |
変動費 | 1129 | 1129 | 売上高は変わるが費用は変わらない |
固定費 | 1640 | 1640 | 売上高は変わるが費用は変わらない |
営業利益 | 54 | -510.6 |
おや、と思った人もいるかもしれません。売上は20%下がるのに変動費が変わらないのはなぜでしょう?問題文を見ると納入価格を20%引き下げても受注量は変わらないようですね。ここで、売上高と利益の関係を見ていきます。
売上高-費用=利益 |
一番シンプルな関係がこれです。ではこれをもう少し分解してみましょう。
(販売数量✕単価)-(変動費+固定費)=利益 (販売数量✕単価)-(販売数量✕1個あたり変動費+固定費)=利益 |
と、なります。この式に当てはめてみると、今回は販売数量に変化はないため単価が20%下がったとみなすことができます。となると単価が下がったことによる変動費の変化はない、ということです。
別の見方をすると、売値がいくらであろうとモノを作って売る費用になんら影響はないということです。変動費はモノを作って売るためにかかる費用のうち、固定的でない費用のことです。モノの値段が安かろうが高かろうが、作って売るという流れの中には影響を及ぼさないのです。
ということで変動費の額については増減がありませんが、変動費率の式 $\frac{変動費}{売上高}$ の分母の値が変わるので変動費率は $\frac{1129}{2258.4}$ に変わります。損益分岐点売上高がどう変わったのかを確認します。
損益分岐点売上高=$\frac{固定費}{1-変動費率}$ = $\frac{1640}{1-\frac{1129}{2258.4}}$=3279.419…. およそ3279百万円となります。 売値を20%カットすると、カットしない場合に比べ546百万円ほど多く売らないと黒字にならないということなんですね。営業赤字ですし20%カットというのは呑めません。では30%カットにして受注量が倍となったらどうなるのでしょうか?
納入価格が30%下がるが受注量が2倍になった場合
現状 | 30%納入価格引き下げ 販売数量が2倍 | ||
売上高 | 2823 | 3952.2 | 2823✕(1-0.3)✕2 |
変動費 | 1129 | 2258 | 1129✕2 |
固定費 | 1640 | 1640 | 売上高は変わるが費用は変わらない |
営業利益 | 54 | 54.2 |
今度は変動費も変更があります。先程の式では
(販売数量✕単価)-(販売数量✕1個あたり変動費+固定費)=利益 |
ですので、販売数量が2倍になれば変動費も2倍になります。価格が30%引き下げられたことについては影響がありません。販売数量の変動のみが費用の変化に影響します。
損益分岐点売上高=$\frac{固定費}{1-変動費率}$ = $\frac{1640}{1-\frac{2258}{3952.2}}$=3825.763…. なのでおよそ3826百万円、ということになります。
こちらの策であれば営業利益もわずかですが増加しますし、ギリギリ呑んでもいいかな、、という感じです。営業利益や安全余裕率にほとんど変化がないにも関わらず依存度が上がりますからね。
まとめ
今回は受験生が混乱しやすい、私も当初混乱した変動費、変動費率の扱いについて説明しました。頭の中だけで計算せず、売上高、変動費、固定費、利益、と表にすることで混乱することなく整理することが可能です。
またどういうパターンで変動費が変わって変わらないのか、変動する要因がどのようなものであるのかをしっかり定めることで切り分けすることが可能です。今回であれば販売数量は変動費の変化に影響し、販売単価は変動費の変化に影響しません。はじめは混乱しがちですが、落ち着いて考えればなんてないことです。
皆様の助けになれば幸いです。
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